act4 : かわたれどき



1

 「糞、飯に椎茸入れるなっつっただろ、カメレオン」
 相変わらずの毒舌ぶりに俺は安堵した。偶然に缶詰に入っていたきのこにも相変わらずの反応が返ってきたし、俺が晩御飯の時間より遅く帰ってきてしまったらやはり同じように痛い毒舌が帰ってきた。俺はホッとため息をつく。 別にいじめられるのが好き――なんていう変態ではない。ただ、そう、いつもの蛭魔に戻ってくれたことに俺は安堵した。
 あの日、あんなことがあってから、蛭魔はずっとだんまりを続けていた。頼まれたとはいえ、何の責任を感じることもなく外に連れて行ってしまい、果てには、蛭魔を狙っているのだろう謎の男たちに、俺と蛭魔は襲われてしまった。堂々とあんな人目の市場で襲ってくるなんて思わなかった、にしてもだ。蛭魔に足がついてしまった。しかも俺といることが ばれてしまった。これでは蛭魔が何処にいるのかなんてすぐにわかってしまうし、いざとなれば俺をだしに使われるかもしれない。蛭魔がだんまりを続けている間、俺はそればかりが気がかりだった。
 襲われたその日は蛭魔は何も話し出そうとはしなかったが、次の日になれば蛭魔は元の蛭魔に戻っていた。さっきも言ったように、毒舌ぶりも、でかい態度も戻ってきた。時たまうつろな瞳をすることもあるが、それは今に始まったことではなかった。はじめて会ったときから、蛭魔はいつもうつろな瞳をしていた。 気にかかることも事実だけれど、それは干渉してはいけないと思っていた。

「しかたねえだろ、缶詰に入ってたんだからよ。マッシュルームは食えんのに、そのほかのきのこだって同じだろ。こんな小さい椎茸ぐらい食べろよ」
「じゃあ飯イラネ」
「ったく、じゃあ俺のにんじんと交換してやるから」
「にんじんもそんな好きじゃねえ」
「カッ! お前な」
「肉貰うぜ」
「あ、お前ッ! それ俺の一番でかい肉!」
「ケケ、貰い」

  朝飯を食べていて、俺は蛭魔に肉を奪われしぶしぶ蛭魔の皿から椎茸をひょいとひろいあげた。蛭魔はケケケと笑って俺を見、俺がちょっと気をそらした隙ににんじんもぽいと俺のさらに投げ込んだ。俺は、どうせそのにんじんをもう一度蛭魔のさらに投げこんだってすぐに帰ってくることを知っていたので渋々そのにんじんを食べた。 俺だって別に野菜が大好きなわけじゃないんだぞ、と言うが蛭魔には効かない。当然。
 食事が終わると、俺は洗い物をしてさっさと出かける準備をした。久しぶりに友人と遊びに。最近は色々と忙しくてバイク仲間たちと何の音沙汰もなかったので今日は何も考えず喋ったり乗り回したりする予定。俺がいそいそと着替えをしていると、部屋に蛭魔がやってきて俺は声をかけられる。「出かけるのか」と訊ねられ、「おお」と俺は返事をした。

「ケケケ、変な人についてっちゃ駄目でちゅよ?」
「カッ! 人をいくつだと思ってやがる」
「カメレオンの18歳って人間の何歳だっけか」
「俺が知るか! っていうかなんだその嫌味は、ムカツクな」
「まあ、せいぜい気をつけることだな」
「なに、心配でもしてくれてんのか?」
「ケケ、まさか。自分の心配に決まってんだろ」
「はいはい、そうだと思ってましたよ」

俺はかばんを手に取り、玄関までかけていった。俺が鍵を閉めるのを見届けにか見送りにか(後者はありえなけど)蛭魔は俺と一緒に玄関までついてきた。俺は昼飯の心配と鍵の心配をしてそれを蛭魔に告げると、蛭魔は「俺をいくつとおもっているんだ」と言った。俺の真似をしたようだったが、それが彼にとって墓穴を掘った形となった。じゃ、いくつなんだよ、と俺が訊ねることのできる会話を作ってしまった。俺はそれを察し、にやにや笑って蛭魔を見た。

「聞いて欲しいなら聞くけど?」
「チ、俺としたことが」
「ま、聞いて欲しくないんだろ? 歳なんてどうでもいいし。まあ50歳ですとかいうなら別だけど」
「ケケケ、テメェもおもしれえこと言えるようになったんだな」
「おかげさまで」

俺は靴をはき、俺はドアノブに手をかける。ふりかえると蛭魔はまだ玄関に立っていて、面倒そうに瞳を細めて俺を見ていた。そんな蛭魔の目に俺はどぎまぎしたように頬をかく。「なんです、か?」と恐る恐る聞いてみると、蛭魔は、蛭魔も、少し照れたように困った声で言った。

「晩飯オムライス食いたいから気をつけて帰ってこいよ」
「……、…………ッ」
「……い、いいからとっとと行きやがれ糞爬虫類!」

俺は目をまん丸にして蛭魔を見つめる。丸の度合いを言うならばボールぐらい、満月ぐらい、丁寧に十分くらいかけて真剣にかいたコンパスでの円ぐらいに、まん丸。
 俺は、蛭魔の名前を呼ぶと蛭魔に手を伸ばしかけた。でもしそうになる寸前で手を止める。何をやっているんだ、自分は。心配ならば友人との約束を取りやめにすればいい。それに心配だとしても、変質者がここに来たとしても、ここは優秀な警備員がついている。襲われる可能性は高くない。俺は、へら、と笑って蛭魔に手を振った。

「……いってきます」
「おお、勝手に行ってきやがれ」

ドアを開けて俺は外の通路に出てドアに鍵を閉める。閉め終わると、ドアの向こうで蛭魔が部屋の奥に帰っていく足音がかすかに聞こえた。俺はその音を聞き終えるとため息をつく。えらくどきどきした。まるで玄関で見送る恋人同士みたいだ、なんて思ってしまった自分にどきどきし、ありえない、とため息をつく。疲れてるかなあ、と頭をかいて俺は約束の時間に間に合うように小走りになった。
 思わず手を伸ばして、思わず触ってみたいなんて思った自分を頭のどこか隅っこに忘れれるようにほうっておいて。



2

「ルイ、お前もう、話 聞いたのか?」
「……いや、何の話?」

 待ち合わせの場所にお互い二十分遅刻してしばらくの沈黙のあとごまかすように笑い会って俺と友人は、昼飯を食べた後その店で雑談していた。友人はアイス珈琲を頼み、俺は最初に店員が置いていった水を飲んだ。友人は最初俺の最近のことやバイクの話ばかりしていて、俺もその話にのって 久しぶりにバイクの話に花を咲かせた。
 いい天気だった。この前に雨が降ったからしばらく降らないのはわかっているのだがいい天気だとやはり心嬉しい。街では鳥が空をとび野良犬や野良猫が駆け回り楽しそうにしている。しかし楽しそうにしているのは人間以外の生き物ばかりだった。最近、あまり外で人が歩きかわす姿を見かけない。人を見るとしたら、一地域の人や同じ家やマンションに住んでいる人たちが団体で、まるで肉食動物をおそれる草食性の動物たちが群れをつくるように行動するのを見るぐらいだった。 店も、開いているし客はいるのだがどうも沈んだ雰囲気が流れている。店で流れているラジオの内容が、選挙で脅迫された立候補者たちの特集をしているせいでもあるのだろうか。もう少しましな放送を流したいんですけどね、と水を持ってきてくれた店員が口をもらしたが、店員は、何処の局もおなじようなことしかやってないんですよ、と肩を落としてやるせない表情で笑っていた。 選挙で知事が決まったとしても、おおまっぴらなパレードだってできないだろうし、仮にやったとしてもきっとまた変な暗殺やら事件やらがあるのだろうと思うと、それだけで気分は晴れなかった。……それに。

「最近多い誘拐事件のことだよ」
「ああ、あれな。それがどうした? まさか犯人がわかったとか言う冗談じゃないんだろうな」

まさか、と友人は眉間にしわを寄せた。でも、友人の表情がそれ以上かわらなかったことに違和感を覚え俺は「どうした?」と友人に声をかける。友人は言うべきか否か躊躇ったようだったが俺のほうを見たときに決心したらしく、俺の名前を呼んで話し出そうとした。ちゃらちゃらした俺の友人たちの仲では結構落ち着いてるほうの奴だったが、それにしたって落ち着きすぎている。いや、本当はそわそわしているのに、無理に落ち着かせてそわそわを通り越してしまった落ち着きにも見えた。
 誘拐事件。そうだ、街が沈んでいて人々があまり外を出歩かない理由にそれも含まれている。人が最も多く外に出る日と言っても過言ではないあの市のたつ日に、目の前で人が誘拐されそうになったのだから、恐れて外に出ないのにも納得がいく。もっとも、その誘拐されそうだった人の連れが俺でもあるのだけれど。
 友人は、わざとらしく、にしては自然に小さく咳をした。俺は友人を見た。

「……誘拐された」
「……、は、誰が……、……?」
「お前がしばらく来ないうちに仲間になった奴だ。もちろん、悪い奴じゃない」
「誘拐されたって、仲間内で二人目だぞ!?」
「違う」
「は? 違うって、どういう……」

友人は青ざめた表情をして俺から目を離した。

「四人目だ」

 俺は気づかず立ち上がって手を机に叩きつけていた。それに気がつき俺は静かに店のソファに腰をかけなおす。友人は黙っていた。俺も黙っていた。仲間内で四人も出してしまった被害者。バイクを乗り回している奴が誘拐されているのか? そんなはずはない、誘拐された人にはいろんな職業の人がいるし無職の奴もいる。子どもも、大人も、老人も。共通点は全くない。警察やお偉いさんは大抵、無差別誘拐だと口をそろえるが、俺もそうだとしか思えない。目的が何だろうとも、誘拐に意味があるにしても、無差別なのは、否めなかった。

「……そう、か」
「……」

友人は目を閉じて、珈琲を口に注いだ。



3

 友人は遊びたかったと言うわけではなく、むしろそれは口実で、実際は誘拐された仲間のことを告げたかっただけなのだろう。珈琲を飲み干したあと、とてもいづらそうにしていたので俺は「急用が入ってるから今日はもう帰るな」と切り出して友人を帰らせてあげることにした。悪いな、と俺のバレバレの演技に友人は礼をいい、お互いに反対方向へバイクを走らせていった。
 ビルのスクリーンには臨時ニュースで誘拐された人の話が流れていた。こんなに人がいないのに放送なんてする必要があるのだろうか。いや、放送したとしても、そのことに誰が興味を持つと言うのだろう。自分の家族が誘拐されている人にとったらそんな他人の情報なんて必要ないのに。それに、どうして流れるニュースは『誘拐された』という情報だけで、『誘拐されていた人が見つかった』という情報が流れないのだろう。探しもしない、見つかりもしない、すぐ打ち切るそしてまた誘拐される、その悪循環の隙間に、そんな情報はもはや必要ではないと思える。 俺はバイクを走らし、家路へと急いだ。昼飯の時間からはずいぶんと過ぎている。あいつは飯を食っただろうか。出しておいたレトルトのものに、椎茸は入っていなかっただろうか。何故か気持ち沈んだ心情の俺は、早く家に帰ってソファにでもベッドにでも寝転びたい気分だった。

「ただいま……」

   あからさまに元気のない声を出してしまった自分に後悔した。嫌なことがあったことを、勘のいいあいつにすぐに見抜かれてしまう。だから俺はこれまた、あからさまに不自然にもう一度ちょっぴり明るめにただいまを叫んだ。「一回いったらわかる」とか「椎茸はいってたぞ糞爬虫類」とかいう罵声が返ってくることを期待していたが、部屋の奥からは返事が帰ってこなかった。俺は首をかしげて、靴を脱ぎ、部屋へバタバタと走っていった。ざーざーというテレビの砂嵐の音がした。テレビをつけっぱなしなのに蛭魔の声は聞こえない。まさかとは思うが、まさか誘拐されたなんてことは、ない、よな?  テレビのある部屋――リビングには蛭魔はおらず俺は焦って「蛭魔!」と蛭魔の名前を呼んだ。やはり、返事はなかった。

「蛭魔……ッ?」

寝室のドアを俺は開けた。窓が開いていて、涼やかな風が入り込んでいた。俺はホッとため息をついた。ベッドに、蛭魔は丸まって寝転がっていた。
 俺は荷物をその場に落としてペタペタと床を踏み蛭魔の横へと歩く。風が俺の髪をすり抜けていった。蛭魔の髪も同じようにさらさらと、ぱらぱらと揺れている。風で持ち上がり、通り抜けていく間際にぱたりと落ちる。蛭魔はぐっすりと眠っていた。頑なに、丸まったまま自分の胸辺りを隠し見せようとしない。それが蛭魔の性格のようで、俺はハハ、と乾いて笑った。

「風邪引くぞー」

眠っているのだ、返事は、ない。蛭魔はキリとした睫毛をきれいにまぶたにに飾ってある。よくよく見ると眉毛も綺麗に整っている。こいつが手入れをしているとは思えないが、もしこれが自然なままのこいつならかなり美人美形なタイプに分類されるんじゃないだろうか。あの日、市場で襲ってきた奴らは、あるいは奴らを雇った奴らは、どうしてこいつが欲しいんだろう。なんで蛭魔を狙っているんだ? ならどうして俺はこいつをかくまっているんだろう。友人でもない奴を、こんなに、必死になって。答えの見つからない自問自答に、俺は無言になって、立ったまま蛭魔を見下ろしていた。

「お前は、俺のこと信頼してるからここにいんの?」

微動だにしない蛭魔。よく眠っている。

「空が見たいなら、俺みたいな頼りない奴じゃないとこ行けばいいのに」

うん、と蛭魔が寝返りを打ったので俺は驚いて身を引いた。飯は食ったんだろうか、さっき台所をちらりと見たとき少しだけ散らかっていたから何かは食べたのだろうけど。
   俺は蛭魔の頭を軽く撫でた。

「……嫌、だ」
「? 蛭魔?」
「……嫌だッ」

寝言だとわかるまで少し時間を要した。蛭魔は先ほどまでの穏やかな表情を一変させて歪ませ、ベッドのシーツをきつく握り締めていた。蛭魔は、再度「嫌だ」と言った。俺はどうしていいかわからず、蛭魔の肩に触れた。

「俺には、無理……ッ」
「蛭魔、大丈夫か!?」
「俺に、お前を……、なんて……、……」
「蛭魔ッ!」

俺が蛭魔の肩を揺らすと、蛭魔は息を荒げながら目を覚ました。そしてここが俺の家だということと、自分が俺の家の俺の部屋の俺のベッドで眠っているということを確認した蛭魔は、俺の顔を見て、「見るな」と言って俺を蹴り飛ばした。お前がうなされてたからだろ、と俺が文句を言うと蛭魔はベッドから立ち上がってリビングのほうへ歩いていく。俺はふらふらと歩く蛭魔が心配になって後をついていった。蛭魔はリビングのソファに腰かけ、ぼさぼさになっていた髪の毛を手櫛で適当に直していた。俺が遠めに、蛭魔を見ていたら、蛭魔は背中をこちらに向けて喋った。口調は怒っているように聞こえた。

「早かったんだな、糞爬虫類」
「あ、ああ――ちょっと訳ありで」
「いつから、いた」
「……ついさっき、ほとんど今帰ったとこ」
「そうか、なら許してやるぜ」
「蛭魔……」
「何か言ったら、殺す。黙っとけ」
「……わかった」

 蛭魔が聞いて欲しくなるまで待つ。
 いつだったか俺自身が勝手に自分だけで決めたことだ。気になることがあっても、聞きたいことがあっても、相手が言いたくなるまで待つべきだ。聞き出そうなんていう強引な手を使うのはフェアじゃない。最低限の事を聞いて、何を理由にかくまってもらいたいのか、それだけ聞ければ充分だと思っていた。最低限の理由、それは蛭魔にとっては「誰かに狙われている」がそれにあたる。それだけ知ってれば充分だと思っていた。そう決意した当時は。
 俺は蛭魔の向かいのソファに腰をかけてテレビをつけた。どうせ流しているニュースなんて今までの選挙の事件の特集か天気予報かくだらないドラマの再放送だろうと思ったが、会話のつなぎに、どんなつまらないものでも欲しかった。

『――党より出馬した知事選立候補者の……』

「なあ、蛭魔。この前の市場で襲ってきた奴らの話だけど」
「葉柱、俺がさっきなんて言ったか伝わっていないならあやまろう。それともテメェ言葉わかんねぇのか? さすがに俺カメレオン語は喋れねぇぞ」
「はいはい、黙っとけ、でしたよね」

蛭魔はテレビに視線を向けつつも絶対に違うことを考えていると俺にも理解できた。お前誰に狙われてんの? 寝言の『お前』って誰なの? 俺にはいえないの? かくまってやってんのに、なんておこがましいことなんて言わない。でもせめて、俺のことを信頼しているのか、否か、それだけでも欲しい。そんな風にお前に求める俺が、一番おこがましくて蛭魔を信頼していないということだって、百も承知の上だから。
 俺はジッと、蛭魔に今の自分の気持ちをさとられないよう、見たくもないテレビに釘付けになっていた。

『――氏は以前26歳の若さで議員選挙に当選し、それ以後……』

「葉柱」

ん? と俺は呼ばれたことに気がつき蛭魔のほうを向く。蛭魔は俺をよんだが視線はテレビのほうを見ていた。どうした? と訊ねると、蛭魔はテレビに映っている人物に指をさしていた。俺はその指の方向をつられたように見る。五人の立候補者の中で、まだ辞退をしていない二人の中の一人だった。こいつがどうしたんだ、とそいつを見つめていると、蛭魔は「こいつ誰だ」と俺に聞いた。

「今度の知事選に出る立候補者の一人。当選最有力候補って最初から言われてたけど、あんだけ人辞退しちまったらこいつに当選なんじゃねえの?」
「ふうん、それだけか?」 
「え、あー、バイオテクノロジー関係の医療を充実させるって掲げて人気なの。でも影で暗殺とか賄賂とかしてるって危ねぇ噂もあるんだぜ」
「バイオテクノロジー、ほう……」

蛭魔はあごに指を当てて黙り込んだ。テレビではまだつまらない立候補者の話をしていたのでチャンネルを変えようとしたが、そのリモコンを取ろうとする俺の手を蛭魔の声が制止させたので俺はリモコンをとらないでそのまま手を元の位置へ、自分のもとへ戻した。立候補者の話好きなのか? そんな冗談も、今の蛭魔には通じることはなかった。

『――氏宅に、今日未明脅迫文が送られてきたということで、VTRをご覧下さい』

ザザ、と画面が揺れた。
多くの記者に例の立候補者が囲まれている。ボディーガード思われる人間たちがその人を囲んでいた。記者たちは必死になって立候補者から話を聞きだそうと身を乗り出していた。

『――さん! 何者かに狙われているというのは本当ですか!? 先日も空き巣に入られたとか! 辞退はしないんですか!?』

うるさい、口々に同じようなことを聞こうとする記者たちをかいくぐるように立候補者は歩き、やがてぴたりと立ち止まった。記者たちは一文一句を逃すまいと必死にマイクを握り締めていた。やがて立候補者の声も届き始めた。

『辞退はいたしません。そのようなものにいちいち怖気ついていたら知事など務まりませんよ。大丈夫です、私には有能なボディーガーダーがいますからね』

俺にとってはいちいち腹の立つ喋り方だと思った。もともとあまり議員が好きではないので議員の喋り方は好きではない。もしかしたら親父に反発する気持ちがあるのかもしれないがこの男のは、特に好きになれなかった。悪い噂が付きまとっているせいか。はたまたは、別の。
 『ボディーガーダー』という言葉に反応しカメラは立候補者の周りに佇んでいるボディーガーダーを映した。周りを囲んでいる奴らは、俺のマンションを守っている警備員と比べるとずっと劣っているように見えたが、立候補者の真横で立っている奴には絶対に敵わないということを直感した。俺もよくテリトリー外の奴らと喧嘩をするから、相手の力量を見るのは苦手ではなかった。
 こいつとは絶対喧嘩したくねえなあ、と笑いながら見ていると、よこで蛭魔がゆっくりと立ち上がってテレビに指をさしていた。顔は、まるで先ほどの友人のように青ざめていた。

「誰だ、こいつは……」







その指は、確かにボディーガーダーを指し示していた。








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つまり「彼 は 誰 刻」 あの人は誰?